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イギリスの本に石徹白の記事が載りました。

石徹白川の取り組みがイギリスの野生鱒保護団体の機関誌に取り上げられました。
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上等な紙質の立派な機関誌です。
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「日本における野生渓流魚の保護事例を研究する」として紹介されています。
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イトシロッ子たちもイギリスの本にデビューしました。


昨年、「Wild Trout Trust」(ワイルド トラウト トラスト)という野生鱒保護団体に所属しているポール・ギャスクルというイギリス人が石徹白川を訪れました。私は、闘病中だったので会うことは出来ませんでしたが、彼がイギリスに戻ってから石徹白川での河川管理の軌跡と生態系保全の考え方をイギリスの機関誌へ執筆してくれないか?と依頼されたのです。何でも日本へ来ていろんな川を見て石徹白川のイワナの多さに感動したそうで、日本語で書いてくれれば良い、というお話だったのでお受けした次第です。

その本が届いたのです。それも仲間と4人で届けに来てくれました。
「遠い国の釣り人にまで注目される川になったんだな~。あきらめないでやってきてよかった。
でもね、日本では、まだまだぜんぜんマイノリティーなんですよ」「となりの漁協からも見に来ませんよ」って伝えたら「他の川も見て来たからわかります。人間が欲望をちょっとだけ我慢できればこんなに素晴らしい環境が取り戻せるのに残念ですね。でもイトシロハホントニスバラシイ」と何度も言ってくれました。褒めてくれるのはイギリス人だけってか・・・・涙

日本人は魚と見たら捕って喰いたいだけの人種ですから?、捕って喰っちゃダメとは言わないけどほどほどに頼みますわ。

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右からディーン(カメラマン)、ジョン(ロックバンドのベーシスト)、スティーブン(通訳)、私、ポール、今回はジョージとリンゴは来ませんでした。・・・な~んてね。笑。

ポールとジョンは昨年テンカラの取材で日本に来て石徹白川を知ったという。
二人とも子供の頃からフライフィッシングをやっていたと言うだけあって、私の作った石徹白フライロッドを振らせたらきれいなループを見せてくれた。もちろん「石徹白てんから竿」でも釣りをやってもらい、ポールがイワナを釣ってくれました。
彼らには伝統を守ることの大切さがとても良く理解できるようでしたし、私の作った「石徹白てんから竿」にも興味津々だったんで「イギリスで使ってくれ」って進呈しました。

ポールが僕に本を渡すときに「サイトサン、ツマラナイモノデスガ」って言ったんで僕の方からも「つまらないものですが」ってお返しときました。



本の内容につきましては、私が寄稿した日本語文を紹介します。
省略されてるとは思いますが、下記が原文です。

ワイルド・トラウト・トラスト寄稿資料

石徹白川(いとしろがわ)の紹介
南北に長い日本のちょうど真ん中あたり、日本海に注ぐ九頭竜川の上流部で合流する大支流が石徹白川です。その水源は白山連邦の南端から流れ出ます。九頭竜川水系はその大半が福井県内を流れますが、支流石徹白川の最上流部約20㎞は岐阜県となります。ここに石徹白という歴史の古い小さな集落があり、現在は約270人が暮らしています。この流域の岐阜県部分の河川管理は石徹白漁業協同組合が担います。

日本の河川管理事情
日本ではほとんどの河川を漁業協同組合という組織が管理しています。この組合は漁業法に基づき漁業者が設立する団体であり、各県の知事から認可を受けて県の指導に従う運営が通例となっています。本来は漁を生業とした漁師たちで構成される組織ですが、石徹白漁業協同組合には漁師と呼べる組合員は現状では一人もいません。漁業協同組合に漁業権が認可される条件として、指定された漁業権魚種の増殖と環境保全の義務を課せられているが、現実には増殖と環境保全のどちらにおいても、大して効果が上がっているとは言えない。その理由は、日本では漁業者及び遊漁者(釣り人)に対しての、漁獲制限はほとんど課されることがないので、漁業協同組合が県の方針に従いどれだけ種苗放流をしても、それを上回る乱獲構図により生態系はどうしても荒廃してしまいます。こうなることは種苗放流に偏った行政の指導方針に大きな要因があると思われます。

釣り人からの提案
今から15年前、そのような河川管理に疑問を持った釣り人が声を上げました。もっと河川環境の保全に重点を置いた、自然再生産ができる生態系を復活させようと、キャッチ&リリース(以下C&R)を義務付けた釣り場を作りましょうと提案したのです。それが上手くゆけば釣り場としてのクオリティと河川環境の両方が向上できるはずだというものでした。石徹白漁業協同組合はその提案を受け入れ、管内を流れる小支流の峠川にオールC&Rの釣り場を設けたのです。場所の設定には、何よりも魚たちが産卵できる環境を優先したことでその効果はすぐにあらわれ、その年の産卵期には産卵床が激増したのです。そして過去10年以上にわたり、養殖魚は一切放流していないにもかかわらず、魚の密度は管理流域内で一番高いエリアとなっています。この成功によって、産卵できる親魚を残しさえすれば生態系は復活できることが実証されたのです。我我が声を上げた15年前はC&Rを認めたくない人たちから「いったんハリにかかった魚はリリースしても死んでしまう」と言われたものですが、今ではもうそんなことを言う人はいなくなりましたし、漁業協同組合員の意識も大きく変わって、産卵床の造成、またその後の大規模な人口産卵河川造りへとつながり現在に至っています。

日本のC&R事情
日本では、魚釣りにおいて釣れた魚を食べることは当然というのが社会通念であり、釣った魚を放すことはまったく理解されない国でした。「食べないのなら何のために釣りをするの?」が一般的な考え方です。そのうえ、日本には遊びの釣りを管理する法律がなく、すべて漁業法のもとで管理されており、指導する行政もC&Rなどは漁業的にありえないという考え方になるのです。そのため行政は長年にわたり、釣り人が釣りたいだけ釣って、カラッポになってしまった川に、養殖の種苗を放流すれば、それでいいという指導を続けてきました。ようするに、日本の河川管理には産卵のための親魚を残す発想がまったくないのです。残念ながら今でもほとんどの河川でこのような管理がなされています。
このような日本において、C&Rを導入することはまだまだ大変なことで、一漁協の管理面積のほんの数%をC&R区間にするだけでも、かなりハードルは高いのが現状です。

人口産卵河川
日本には急勾配な河川が多く、ほとんどの川の上流部はいくつもの砂防堰堤等で寸断されているため、この堰堤が魚たちの生態系にとって大きな障害になっています。特に産卵のために上流を目指すイワナやヤマメには深刻な障害となり、秋になると堰堤直下は行き場を失った魚たちの溜り場となってしまいます。石徹白川では、このような弊害を補助するために、本流の第一堰堤下流の右岸に、人工的な産卵用小河川を造成しました。川幅1m~1.5mで全長200mとけっこうな規模であり、秋になると多くの魚たちがここを利用します。とくにイワナは産卵においてこのような細流を好むので、毎年10月下旬から11月にかけて大量のイワナで溢れます。このような管理手法は、最初にそれなりの工事が必要となりますが、一度作ってしまえば毎年産卵期前のメンテナンス程度で長年にわたり効果を維持することができ、大変持続性の高い管理法といえます。そして何より、ここで再生産され命をつないでゆくことが、より石徹白川に適合する遺伝子が引き継がれ、強い野生魚の増殖が実現します。また、このような循環型の管理には、環境保全という大義が生まれるので、釣り人だけでなく自然を愛する一般市民からも支持が得られることが、関係者のやりがいにつながります。この人口河川事業も、最初から100%の成果が得られたわけではありません。最初は手探りで始めたものも、2年目3年目になるとイワナが好む流速などもなんとなく分かってきますし、孵化した後の仔魚や稚魚期の生息環境も考えられるようになってきます。毎年このような改善を重ねてゆくことで、人工河川の産卵環境は確実にレベルアップしています。4年目を迎えた今では、自然の小川と区別がつかないほどになっています。そして、生態系の循環が簡単に観察できる教育の場という、副次的効果も生まれました。

小学校つりクラブ
石徹白地区の小学校は全校生徒10人です。3年生から6年生の子供たちに週1回、フライフィッシングを教えて4年目になります。学校はC&Rエリアの近くのため、子供たちは歩いてやってきます。つりクラブなので、もちろん釣りも教えますが、我々が子供たちに本当に伝えたいことは、ふるさとのこの素晴らしい自然環境は何物にも代えがたいもので、そこに生息するすべての生き物は、ここに暮らす人々の大切な仲間であることと、その自然を未来につなげてゆくことを大切と考える人になってほしいということです。そして、やがてこの子たちが石徹白地区を担ってゆく大人になるのです。

在来イワナ個体群の保護
日本のイワナは、分類的には1種類とされていますが、各水系ごとに独自の進化をしてきた個体群が生息し、その外見的特徴にもずいぶん違いがあることが確認されています。ところが、長年にわたる放流主体の管理により養殖魚との交雑が進み、在来の個体群が絶えてしまった生息地が多くなっています。さいわい石徹白川水系には、過去に放流されたことのない支流が何本かあり、その奥にひっそりと在来個体群が生息しています。それは一見して血が濃いとわかる特徴のあるイワナたちで、鑑定の結果、未発見のDNA型群と証明されています。このような生態系では、違う遺伝子をもつイワナの密放流が深刻な打撃となります。釣り人が良かれと思い下流で釣った魚を移植放流するケースもあり、そのような行為がたった一回されるだけでも、遺伝的な純潔は簡単に絶えてしまいます。このようなイワナたちを守る活動も重要と考えます。

文化の伝承 石徹白てんから研究
石徹白には昔から「てんから」と呼ばれる伝統的な釣り方が伝わっています。山野に自生する竹から3m弱の一本竿を作り、馬の尾の毛を6本5本4本とテーパーに縒ったものを、竿と同じくらいの長さのラインにします。その先に90㎝くらいのハリスを結び、先端に毛ばりを一本だけ付けるという、いたってシンプルな道具を使う釣りです。かつて、石徹白のような山村では自給自足が原則だったため、村の男は皆「てんから」で魚を釣ったのでしょう。仕事を終えた夕方、ちょっと川に行き家族の食べる分を釣ってくるのにもってこいの釣り方だったはずです。このような昔ながらの「てんから」を伝えられる人は今では地区に3人しかいません。このままではこの古いスタイルの「てんから」は確実に絶えてしまうことを危惧し、「石徹白てんから」を伝承してゆく活動もはじめました。もちろん昔ながらのスタイルにこだわり道具から再現しています。また子供たちの「つりクラブ」でも、地区に伝わる伝統文化として紹介しています。

命をつなぐ川づくり
我々が石徹白で行っている活動の全てに共通しているテーマは「命をつなぐ」ということです。生き物たちが命をつないでゆける自然環境を未来に引き継いでゆくことが、最も大切なことだと考え行動しています。人が自然を管理すると、どうしても人間本位の偏った環境になりがちです。人間にとって利用価値のある生き物だけがいくら繁栄してもダメなのです。本当の自然環境保全とは、人間が何もしないことなのかもしれませんが、個人で今すぐ実践できることとして、私たち一人一人が自然に対し、できる限りダメージを与えない関わり方を意識することではないでしょうか。私たちはこれからも石徹白から「命をつなぐ川づくり」という言葉を発信してゆき、日本中の河川管理にこの考え方が根付くことを願っています。

by itoshiro-sp | 2015-05-23 13:59 | イトシロ  

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